Donald Norman先生、そして日本における『ユーザーエクスペリエンス』の悲しい実態

Web制作の世界では『ユーザーエクスペリエンス』という言葉が使われる。これはとっても大事な概念だし、利用者側はこの言葉自体は理解してなくても、これが指し示す概念については誰もがよくわかっているもの。

しかし、この点の意識が明らかに低いと言わざるをえないWebサイトやサービスが、日本においては多い。Webという素晴らしい道具を手に入れ、これをどうやって活かせば皆の幸せにつなげられるのかを考え、知を集約させ進化させるのが今を生きる人達の義務であり役割だと僕は思うのだが、実際にはWebの制作側も発注側も、時計が止まっちゃっているんじゃないかと思える場面に多く出くわしてしまう。

これは不幸なことだ。
『ユーザーエクスペリエンス』という言葉あるいは概念は、認知科学者でカリフォルニア大学サンディエゴ校名誉教授のDonald Normanさんが提唱したと言われている。彼はかつてAppleフェローという立場であったとき、「User Experience Architect」という肩書きを名乗っていたのだ。

Donald Normanさんって、なんと1935年つまり昭和10年生まれのおじいちゃんなのだ。なんかカッチョいいぜ。

Donald NormanさんのWikipedia記載

彼のサイトはさらに興味深く、ドメイン名は下記の通り。

http://jnd.org/

「jnd」というのは「just noticeable difference」ということらしい。うむーなんか深そうだぞ。

Webにしてもデータベースソリューションにしても工業製品にしても、およそ人が使うものを作る立場の者は、彼が提唱した概念を少しずつでも学んでおくべきだろう。「デザイン」っていう言葉自体も日本ではかなり誤解されていて、見た目格好いいものを作ること=デザインだという大きな思い違いをしている人は驚くほど多い。

見た目の美しさは大事だが、それは「デザイン」というものの領域のある側面に過ぎない。実際にデザインというものの領域としては、たとえばWebならボタンが押しやすいとか、その先に何があるかが無意識に理解できるとか、個々の認識の違いをうまく吸収するとか、そういう部分を含む話だ。

そんなの当たり前だが、実際にWebがらみの仕事をしていると、こうした基本すら意識できてない人が多いのも、残念ながら事実だ。これは作り手もそうだし、制作発注側もそうだ。

具体例を上げてみよう。下記「Suicaインターネットサービス」のサイト画像をみてほしい。



いま仮に、Suicaカードは持っているけれどインターネット経由での電子マネーへのチャージはやったことがなくて、これからその設定をして実際にチャージしたいとする。実際、このサイトを訪れる人としてはそういう状況の人が多いだろう。

その立場だとして、このサイト画像をパッとみてどこをクリックしたらいいかわかるだろうか?たぶん100人中90人以上が、左にある水色の「Suicaインターネットサービスを使ってみよう→ご利用登録」をクリックするんじゃないだろうか。

しかし実際にはそれはハズレである。「ご利用登録」と書いてあるボタンの先には、登録マニュアルがあるだけ。マニュアルっていうのも奇妙な話で、Webサイトにおいては実際に操作する画面の中に説明を書けばいいのに、あくまでシステムとマニュアルは別物という固定観念が払拭出来ていないようだ。

そしてユーザが目的を達するためには「サービス利用登録済みの方へ」というボタンをクリックするのだ。つまり、Suicaを持っていてインターネットサービスをこれから新規登録したい人は、「登録済みの方へ」というリンクをクリックしろっていうことだ。

いやちょっと待ってくれ、僕はまだ登録してないからこのサイトに来たのであって、これからSuicaインターネットサービスに新規登録するのだ。だのになんで「登録済みの方」と分類されるんだ?ワケがわからないが、これが現実として正解なのだ。

結果としてこんなにわかりにくいWebサイトになってしまう理由は、制作側としてはよくわかる。1つは、デザインやマーケティングなどと、システム側の担当者との風通しが悪いのだ。そしてもう1つの理由は、これはある意味日本の将来を左右しかねない大事なポイントなのだが、そもそも「ユーザエクスペリエンスの専門家」という立場の人が制作チームに存在してないのだ。

言い方を変えると、「ユーザエクスペリエンスの専門家」という人がいたとしても、日本においてはまったくリスペクトされないのだ。知性のある人がリスペクトされない社会であるとは感じているが、その結果がこれだ。やれやれ。

TSUTAYAのレンタルビデオクーポンでも、同じ思いをしたことがある。ケータイにクーポンを表示させ、レジで見せると割引が受けられるなんてキャンペーンをよくやってるのだが、2011年のこのご時世だというのに、iPhoneにちゃんと対応させたサイトが存在しないのだ。もっとも多く売れている携帯電話の機種にちゃんと対応させてないのだ。

おかげでPCサイトの細かい文字を老眼が進行しつつある45歳の僕は必死に読まねばならない。しかも、どの画面を見せたらクーポンとして利用できるのかも、ちっともわからない。そのハードルを乗り越えた僕はレンタルを半額にてゲットしたが、回りを見ると皆が半額にしてるわけじゃないみたいだった。

もしかしたらわざわざ意地悪な作りにして、そこを乗り越えた人だけ半額ねっ、ていう考えなのかもしれないが、それで顧客側に残るのは徒労感である。そんなんでいいのだろうか。

そもそも、きょうびiPhoneなどのスマートフォン用にCSSを別途用意することなんて簡単だろう。しかもオンラインクーポンだから、携帯電話でその場でアクセスするのが普通。レジでノートPC広げてクーポン見せる人が沢山いたら結構イヤかもしれない(苦笑)。

話をもうちょっと根源的なところまで掘り下げると、ユーザにとって親切で分かりやすくて使いやすいようなWebサイトを設計することにとても長けている人がいたとして、その人に仕事が殺到して単価も上がってウホウホ、なんてことが絶対に起きないのがいまの日本。

「良いモノを作る能力」よりも「いいお客を捕まえる能力」を持っている人のほうがずっと社会的地位が高いっていうのが現実なのだ。これは多かれ少なかれ世界的にそういうもんだという意見もあるかもしれないが、僕は違うと思う。

アメリカでは、技術が高ければ無条件でリスペクトが得られる。日本ではリスペクトなんていうものは、特にクライアント側からは得られるなんてことはまずあり得ず、懸命に学んでクオリティの高いものが作れるようになった人が、冷や飯食わされる社会なのだ。

もちろん日本に生まれ育ったものとしては、天然資源の少ない日本にとって人はもっとも大事な資源だっていう意識が広まるように努力してゆきたいとは思う。でも実際には、アメリカに引っ越したほうが高いレベルで競争できて、自身も高められるだろうなあ。
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