イスラエルで誕生した教育プログラム「Mind Lab」を、私の小6・小2・年少の3人の子供に体験させる機会を頂けた。そこでその感想、およびインストラクターの方から教えていただいき親として理解したことをご紹介しよう。
■「Mind Lab」の本質
Mind Labの授業風景は、一見すると子供がボードゲームで遊んでいるようにみえる。実際そうではあるのだけれど、しかしボードゲームはあくまで材料に過ぎない。Mind Labの本質は、ボードゲームを行うという行為を利用して問題解決の手段、ものの考え方、コミュニケーション力、社会性、感情のコントロールなどを学ぶという点にある。「ボードゲームは材料にすぎない」というのは当たり前の話ではあるけれど、まあ世の中にはどうしても頭のカタい人はいるもので、学校関係者でも「あ、ゲームでしょ」とか「学校のボードゲーム部で導入しようか」などと言う人はいるとか。
では、ゲームを解くことがどう教育に活かせられるのだろうか。短い体験で垣間見えた具体例を挙げてみよう。なお、ゲームそのものが本質ではないのでルールについては割愛していることと、ゲームの効能についてはあくまで茂田の私見として書いている点、なんせ私も今日初めてみたので認識の間違いもあるかもな点はあらかじめお伝えしておく。
※参加者
・息子1(小6・11歳)…パズルだのボードゲームだのというのに対しては異様なほどの強さをみせるのだが、実は学業成績はいまひとつで、図工だけ成績がいい。
・息子2(小2・7歳)…数字に強く記憶力も高いが、ちょっと切れやすいのが難ではある。学業成績は平均。
・息子3(年少・4歳)…やっと赤ん坊から脱したくらいの保育園児。ひらがな・カタカナは読める。
[1]「Wolf and Sheep」で学ぶ問題解決法
最初に取り上げたのは「Wolf and Sheep」というシンプルなボードゲーム。Mind Labでは幼稚園児相手に採用しているもので、うちの年少の息子3でもインストラクターが口頭でルールを説明しただけでおおむね理解できるくらいのレベル。ただし簡単といっても、必勝法的なものを考えだすには論理的思考が必要。興味深いのは狼と羊とで付与されるルールが異なる、アシンメトリックなゲームである点。まずインストラクターは子供たちに「どちらが有利だと思うか?その理由は何か?」をどんどん発言させる。こういうのに強い息子1がバシバシと正確な発言をしていてちょっと笑える。
このゲーム、最初はどうやっても狼が勝つのだが、理屈がわかってくると羊が勝てるようになってくる。息子1もいろいろ考えて、どうやら羊側の必勝法は理解できた模様。
息子1くらいになると、ゲームのルールを頭のなかで練り込んで作戦をあみ出すことができ、3〜4年生では何度もコマを動かして羊の負けを経験しながら、ふとこのゲームにおける法則を掴みとることができる。それ以下の子でも、お互いに狼と羊を交代しながら、勝つことと負けることの両方の気持ちが理解できる。
[2]「Rush Hour」で学ぶ協力と協調
次のゲームは、駐車場からクルマを出すパズルゲーム「Rush Hour」。実はウチも持っていて息子1は全レベル、息子2も8割がたクリアしていたのだが、ここでもやはりゲームは本質ではなく、興味深いのはその遊ばせ方。1人で解くパズルゲームを、あえて2人1組で取り組ませ、実際にパズルを動かして解く係と、横からアドバイスをする係とを交代でつとめるのだ。パズルの得意なほうは横で見てるとイライラするわけだが、ヒントは言っていいけど手を下してはいけないのがルール。
この姿をみていて、「あっ」と思った。これって私が社員に仕事教えてるシーンそのままだな、と。こっちが手を下してしまっては社員の能力は上がらないし、イライラしちゃってもいけない。相手の思考パターンにあわせてうまく誘導していかねば問題は解決できないのだ。うーむ。
息子1は4年生の子と組んで、それなりに優しく誘導していた。一方息子2は1年生の子と組んで、思いっきりイライラして相手の番なのに自分で動かしちゃったりと、よく性格が出ていて笑えた。
このパズルを解くことにおいては、最終的な目的は何かを念頭に置いて途中に存在するハードルをクリアしてゆくという思考形態を学ぶことができる。子供たちがそう考えるように、インストラクターが会話の中で仕向けるのだ。
[3]「アバロン」で学ぶ先を読む力
最後に登場した「アバロン」というボードゲームは、前出のものより若干ルールは複雑。といっても小学生が一瞬で覚えられるレベル。これは単純に対戦をするものなので、ゲームを進めるにつれて同レベルの相手と戦えるような調整が必要なようだ。そして、どうコマを動かすことが戦いを有利に運べるかを、実際のゲームを進めながら頭の中で試行錯誤してゆく。本気でやると、大人でも結構疲れる。
ちなみに数ゲーム戦ってコツをつかんだらしい息子1に僕が挑んだが、ボロクソに負けてしまった。ちぇっ。
■「Mind Lab」のカリキュラム
今回は正味2時間で3種類のゲームをやったが、実際は1回1時間程度を継続して授業するものだそうだ。使用するボードゲームは学年により分けているが、同じゲームを続けると勝敗が偏ることもあり、どんどん新しいゲームを入れてゆくのが基本だそうだ。その結果、現時点でおそらく50以上のゲームを扱うことになる、とのこと。
何度もいうようにボードゲーム自体が本質ではないので、インストラクター側の教本には子供をゲームに取り組ませるにあたって、どういうディスカッションをさせるか、子供に何を聞くかといったあたりがしっかり書かれているのだそうだ。
それでも授業を続けるとどうしてもラクな方向に流れがちで、ゲームを楽しむ方向に逃げてしまう傾向があり、そこを引き戻すためにもインストラクター養成後も定期的に訪問し、実際の流れをみることは欠かせないのだそうだ。
というわけで子供たちにとってはあっという間の2時間であったが、親としてみていて、これは継続的に行うことでいろいろな要素を学べるだろうな、という点の手応えはあった。とともに、子供たちの「議論を引き出す」「発言させる」「考えさせる」ということが重要である点において、インストラクターの技量がかなり大きな比重を占める点を強く感じた。
■息子たちにとって救世主となるか
前述のようにうちの息子1は、パズルは得意で図版など書かせると異様にうまいが、しかし学業成績はあまりよろしくない。どうも「従順さ」という要素が大きく欠落しているようなのだ。これはうまく伸ばせば素晴らしい人材になるが、いまのままではたとえ塾に入れて詰め込んでもいい結果は得られないなと、親としてかなり悩んでいる。こんな息子1にとって、自分の得意分野でガンガン発言できるような場が得られることは、その習慣をそのまま通常の学業に持ち込んでくれて能力を伸ばせるんじゃないかと、ちょっと期待してしまう。
息子2にとっては、感情のコントロールを学ぶいい機会かもしれない。いつも穏やかな雰囲気の息子3にとっては、何かを集中して考えることを体験できるであろう。
いやこれ、面白いよ。子供にとって面白いというのは全体のごく一部の要素でしかなく、本質は思考様式を育てるというあたりにあるね。
Mind Labの対象年齢は就学前から小学生までとのことだが、私としては小学4〜6年生にこそ体験してほしいかな。